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日本の英語教育はどうしてこうなった?歴史から見る課題と現状

2023/05/22

日本での英語教育に対してどのようなイメージを持っていますか? 多くの人が中学校や高校で習ったことを思い返すのではないでしょうか。その内容は単語を覚え、文法を理解し、和訳や英訳をするなど、テストのための勉強を思い起こす人が多いのではないかと思います。実際、日本の英語教育は戦後から大きく変わっておらず、小中学校で勉強したにも関わらず英語を使ったコミュニケーションが苦手な人が多いという課題を抱えていました。

さらに昨今のグローバル化の流れもあり、文部科学省は本格的に課題解決のため学習指導要領の改訂に着手。2020年からは中学校だけでなく、小学校でも英語の授業が導入されたほか、指導要領内には小学校から高校まで「コミュニケーション」を意識した文言がちりばめられていることから、これまでの「読む・書く」だけでなく「聞く・話す」という部分にも力を入れるようになるということが読み取れます。

今回は日本における英語教育の歴史を振り返るとともに、現在の取り組みと、学習指導要領の改訂で期待できることについてご紹介します。

日本における英語教育の歴史

日本の英語教育における歴史を振り返ると、大きく3つの流れに分けられます。ひとつは、鎖国を解いて洋学が蘭語(オランダ語)から英語に移り変わった明治維新以前。次に学校の系統、組織に関する教育行政組織を規定した1872年の「学制」が公布されるなど、日本において最初の教育改革が起きた明治維新以降から第二次世界大戦前までの時期。最後に第二次世界大戦終戦後以降となります。

ここではそれぞれの時代を簡単にまとめました。

明治維新以前

オランダを通して世界のさまざまな情報を仕入れ、外交政策をしていた江戸幕府。しかし1808年にオランダ船を装ってイギリス軍艦フェートン号が長崎に入港した「フェートン号事件」を機に、江戸幕府はイギリスの台頭とオランダのヨーロッパでの国力衰退を察知。翌年の2月からは蘭学通訳者6人に英語学習を命じました。

さらに、1858年には長崎に「英語伝習所」を開設。1860年に幕府が洋学教授のほか、洋書や外交文書の翻訳などのために設けた機関「蕃書調所(ばんしょ-しらべしょ)」(後の開成所)で英語が修めるべき正規の学科とされました。

明治維新以降から第二次世界大戦大戦前まで

「学制」公布後、日本の教育は「日本」という国家の教育行政の下に行われるようになります。英語教育については外国人教師の発音や会話から直接学ぶ「正則英語」と、読み書きや文章を訳して意味を理解する「変則英語」の二つから成り立っていました。当時の英語教育は大学の講義を英語で行うなど、外国人教師が担うことが多かったようです。

その中で、福沢諭吉は慶應義塾を設立し、自身が英語を取得するだけでなく、教育を行う側としても活躍しています。実際に英語を中心に講義をすると、漢語が読めなくなる学生が出てきていることや、英語を和訳した際に、その日本語がよくわからない現象が出てきているなどの課題にも言及しました。

目まぐるしく社会が変化している時期でもあったため、英語に関する議論や主張も様々ありました。洋学者による日本発の学術結社「明六社」結成の中心人物でもある森有礼は、学制が公布されたあたりでは日本語を廃止し、英語を国語化するようなことを提案。国民性保存のため否定こそされましたが、英語公用化論の先駆的な提言でした。

20世紀に入ると、夏目漱石が日本人として初めて東京帝国大学で英文科の教鞭をとるなど、英語教育現場の変化が起こっていきました。夏目は外国語の教科書で学び、答案まで英語で書いていた当時の英語教育に関して「日本が独立した国家であることを考えると、すべての学問を英語で学ぶのは、英国の属国のような印象を持ち、一種の屈辱である」といった内容の考えを述べています。

そのほか英語教授法について議論された「英語教員大会」なども行われ、議論が活発化していきました。

第二次世界大戦後

戦後、教育基本法が制定後に新制中学校が発足すると、英語教育が義務化されました。これが近年までの英語の授業の土台になっているものです。

終戦直後は漢字を無くし、ローマ字を採用するなどを唱えた「国語全廃論」や、英語を公用語とする「英語公用論」などが議論されていましたが、次第に「教育において、英語はどうあるべきなのか」という論争が起きるようになります。いわゆる「実用英語」と「教養英語」をどのように扱うのかという話です。約50年前に起きた議論ですが、現在の英語教育でも重要な論点になっています。

現在の英語教育について

2003年3月には「『英語が使える日本人』育成のための行動計画」が発表されました。明治以来の日本語廃止論、漢字全廃論とは違い、母国語である日本語はそのまま認め、英語を第二公用語というポジションに据えていることがこれまでと大きく異なるポイントです。

現在、教育指導要領では「より実用的な英語教育」に力を入れています。日本での英語教育では長年、「話す」「書く」といった発信技能の弱さが課題になっていたため、文法や、書き取り、英訳、和訳などといったもの以外にも、リスニングや実際に話してみるという内容も増えているようです。

2020年の英語教育改革で目指すものとは

これまで以上に、実際にコミュニケーションツールとして使えるようになるという意味での「実用英語」に寄せた教育内容に変化した日本の英語教育。グローバル化が進む中で、異文化交流も増えることが予想されるため、英語だけを取得して話せるだけでなく、どのような考えで、その判断をしたのかなど、より複雑な場面も増えてくるかもしれません。

子供たちの将来の可能性の広がりのためにも、英語はより不可欠なツールとなっていくでしょう。

参考

 

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